<松山株式会社Officeにて>
僕は村山廉。この会社に入社してまだ1年経っていない。
仕事の状況だって?もちろん順調だ。
僕の働いている部署はひときわ作業内容が難しく、
大体の人は残業が週に5日はあってもおかしくない
ある晩、同期に自分の仕事の取り組み方に驚き、こう聞かれた。
「なあ、どうしてそんなに答えのない問題に取り組めるんだ?その集中力が欲しいよ。」
「実は、宇宙旅行プロジェクトのおかげなんだ。」
同僚は首を傾げたかのようにこういった。
「宇宙旅行?」
以前の、僕はこの世のどこにでもいるような大学生の一人だった。
僕が専攻していたのは生命科学開発情報科。
主に生命科学に関する人工ロボットのことである。
だけども、履修したどの科目も自分にとって面白みがない。
やりがいを感じないのか成績だっていまいち。
かんたんな問題でさえ逃げてばっかり。
毎日が堕落した人生のように感じていた。
ヒドイときなんかは自殺を考えるまで精神的に追い込まれていたくらいだからね。
もうこの世にとって自分の存在が必要なのかどうかわからなくなった僕は、
トイレの中で、スマホを取り、
気づけば検索ワードに「自殺サイト」と入力し、調べていたんだ。
その時様々な自殺サイトが紹介されている中で、
一つだけ自分にとって、目をみはるサイトがあったんだ。
そのサイトにはこう書かれていた。
BREAKTHROUGH
ブレイクスルー
この表記を見た僕は内容が気になり、
固唾を飲み込むようにHPを開いたんだ。痺れたよ。
これこそ僕に今必要なことじゃないかって。
早速申し込んで参加したんだ。
どの企画も得るものが多く、
自分の人生を大逆転させるヒントばっかりだった。
その中でも一番印象残っていることがあったんだ。
この星から得た経験のおかげで僕の人生は、
誰もが想像し得ないほど大きく変わることになった。
それは、そう。「幻想の国」だ。
もともと予定では四つの星をめぐり、最後の星へ行くつもりだった。ところが宇宙船が何らかの手により、
コックピットの操縦がエラーになり、
機内に緊急事態のアナウンスが流れ出したんだ。
予定してなかった国へ不時着したんだ。
安定しない宇宙船は揺れに揺れながら、不時着に向かった。
シートベルト以外に安全装置がなく、死ぬかと思ったよ。
でも不時着は無事成功し、宇宙船も無事だった。
ホッとしたのか、安堵が混じった白い息が、
窓の方へ揺れ動いたんだ。
ふと窓を見ると外の様子は言葉にできないほどおぞましく、
体が勝手に震えた。
外の空気が目に見えるほど淀んでいた。
空は茜色に薄汚れた紫色が混じっていて、混沌としていた。
濁った空気が漂っている外へ、恐る恐る宇宙防衛スーツを着用し、
未知の国へ足を踏み入れたんだ。
すると見たこともない怪人がどこからか現れた。
外の空気が目に見えるほど淀んでいた。
空は茜色に薄汚れた紫色が混じっていて、混沌としていた。
濁った空気が漂っている外へ、恐る恐る宇宙防衛スーツを着用し、
未知の国へ足を踏み入れたんだ。
すると見たこともない怪人がどこからか現れた。
彼の名前はファントム。
NETFLIXの「パージ」で登場してくる仮面にそっくりの顔をしていた。
彼の手話は悪酔いしてしまいそうな、気持ち悪いものに見えた。
目は笑っていないのに、表情は目と口角がつり上がっていて、
言うならば不気味な愛想笑いとしか形容できないようなものだった。
奇妙で、不快だったよ、本当に。
しかしこのままじゃ帰還できない搭乗者の僕たちを率いるクルーは
ファントムにお願いするしかなかった。
「ファントムさん。
宇宙船がトラブルに見舞われ、
動かないんだ。
このままじゃ帰還できない。
手を貸してくれないか。」
すると彼はこう発した。「ふははは。宇宙船が動かないのか。そりゃそうだもんな。わしが動かなくしたんだからそりゃ動かないに決まっとる」
どうやら宇宙船のトラブルの元凶はファントムにあるようだ。
「帰還したいのならわしと2番勝負じゃ。
勝負に勝ったら帰還させてやろう。
負けたらお前らは、一生わしの子分じゃ。HAHAHA」
ケタケタ笑っているファントムを前に、
追い詰められた僕たちは「イエス」と勝負を受けるしかなかった。
0.5秒だけとあるイラストを出す。
出現されたイラストを見た後お題を出す。それに答えよ
問題1
あっというまだった。
あまりの早さに、どんな問題がくるのか僕たちは恐れおののいた。
そんな僕たちの様子をあざ笑うかのように、
ファントムはケタケタ笑いながら問題を出した。
「このイラストの名称を当てよ」
なんだ。簡単じゃないか。辺りを見回すと他の搭乗者もクルーも
自信はあるようだ。僕たち全員はアイコンタクトしつつ同時に、
片方の手をファントムに突き出すかのように次のように回答した。「トイレのマークだ!」
「お、見事。よくわかっておる。」ファントムはいった。
しかし何かと表情の顔つきは一向変わっていない。
すると彼は続けてこういった。
「どっちが男か当ててみよ」
その時、僕の頭は一瞬で真っ白になった。
トイレのマークは目で捉え、脳で処理することができたが、
男女の区別まではついていなかった。
いやつけるはずがない。0.5秒だぞ。
よっぽどの動体視力を持っている人でもいない限り
わかるはずがない。辺りを見回すと他の搭乗者もクルーも
みんな自ずと悩まされているのが一目でわかるほど苦戦していた。
すると、その時クルーが全員を注目させようと手を降り始めた。
全員が徐々に彼へ注目し始めると彼は次のように話した。
「みんな大丈夫か。問題だが配色の位置は覚えている。確か右が青だったはず。日本ではトイレの色は、男性用トイレが青で女性用トイレが赤であることが一般的だ。となると、右だ!」
確かに、僕も色について少しは覚えている。青は右だった。
そのため、クルーの話は僕の中では割と合理的。
他の搭乗者も彼の発言に納得したのか、次第に首を頷き始めた。
全員が首を頷くのを確認した彼はファントムの方に体を向け、
こう言った。
「おいファントム。イラストを見たとき、イラストの
右の色が青だった。日本ではトイレマークは青と赤だ。
青が男性用で赤が女性用を指す。つまりこの問題は右だ。」
威厳を放つかのような態度で話したクルーキャプテンに対しファントムの表情は一向に変わらない。すると突然イラストが現れた。
全然違うじゃないか。
当然他の搭乗者やクルーもイラストにびっくりしていた。
するとファントムは次のように説明してきた。
「ははは、お前たちの脳みそはかたい。なぜこんな簡易な問題を間違えたのかわかるかキャプテンさんよ。HAHAHA」
キャプテンは悔しかったあまり唇を噛みながら答えた。
「配色だ。配色に騙されてしまったんだ僕たちは」
「ご名答。よくわかっておるではないか。」
人間は見た目で判断する時、三つの判断材料が現れる。これじゃ
「今回お前たちは0.5秒の間で
判断をしなくてはならなかった。
人間がおそらく視覚から0.5秒で
捉えられる情報は2つ。」
「ふははは。そなたたちは本当にきちんと物を『見る』ことができているかのう。」
問題に間違えてしまった僕たちは何も言えず、
ただ棒立ちすることしかできなかった。
すると、ファントムはたじろいでいる僕たちを見てこう言った。
「第二問!これも答えられなかったら
そなたたちはわしの子分となるのじゃHAHAHA。
心してかかるがよい。」
そう言うと、指を鳴らした。
するとさっきまで何もなかった周りが急に切り替わった。
上をみると、レンガで出来たアンティークな屋根裏が見えた。
まるで魔術でテレポートでもしたかのようだった。
あたりを見回すと周りは薄暗く奥にある舞台にサススポットが白く輝きながら
舞台を照らし続け、気づけば僕たちはカジノにありそうな
テーブルのいすに座っていた。
すると、ファントムが舞台へ登場してきた。
「WELCOME TO MY PARTY!」
そう声を高らかにし、指を再び鳴らしてきた。
すると、さっきまでいるはずのなかったそれぞれのテーブルの向かい側に、
ファントムを同じ仮面をしていた子分が現れ、机の前に立っていた。
会場があまりの急展開にざわめき始めるのを確認したファントムは
楽しそうにこう言った。
「それでは第二問目始めようじゃないか。次の問題は手品じゃ!
各テーブルにおかれた子分が手品をする。
そなたたちは、その手品のタネを見破るのじゃ。
まあせいぜい頑張れ小童ども。」
そういうと、ファントムは舞台から消え去った。
すると、何かを言い忘れたかのように、戻ってきた
「言い忘れておったが、子分たちはわしの磔の呪いにかかっているため、
何一つ話すことができない。話しても無駄じゃ。HAHAHA」
そう言い残し、舞台から消えた。誰一人状況がつかめないまま、
子分たちによる手品の披露が黙々と会場で行われた。
手品が終わると、僕たちは一斉に頭を傾げた。
どこにタネがあるのかわからないからだ。
- 数時間後 -
次第と各テーブルが手品のタネを見破ったのか歓声が上がり始めた。
そして最後のテーブルも見破り、結果勝利を収めた。
すると、一人の男がテーブルによじ登り、テーブルにたった
「やったぞおお。見抜いたぞみんな良くやった!」
クルーキャプテンだ。彼の喜びに歓声が上がった。
帰れる。帰れるんだ。よかった。
すると、舞台に去ったはずのファントムが現れたんだ。
ファントムが現れたことに全員が気づき、
全員の視線は舞台へまばらばにむかっていった。
するとファントムは悔しそうにこう言った
「わしの子分の手品を見破るとはお前たち一体何者じゃ。
わしが全精神かけて生み出した手品のタネを見抜くとは
わしもまだまだじゃのう。」
「ちなみに、そなたたちはこのタネを破るのに何時間かかったと思う?」
この部屋には時計がない。何時間たったんだろう。2時間程度かな..
クルーキャプテンはファントムへ体を向けこう言った
「1時間弱だ。お前ごときの問題に長時間を書けるはずがない。」
するとファントムは呆れたような手振りでこう言った。
「8時間24分だよ。
君たちは8時間24分ずーーーっと議論を重ね
答えを見つけ出した。
僕は君たちを讃えたい。
答えを見出したこともそうだが、
何より難題な問題に対して、
取り組むその姿勢に心を打たれたよ。」
さっきまで、ファントムに対して、
敵を見るような目で見ていた僕たちは気づけは
目つきが変わって柔らかくなっていた。
続けてファントムはこう言った。
「君たちに、『本当にものをきちんと見ているのか』と
問い投げた言葉があったが、
君たちはきちんと見ることができていた。
わからない人もいただろう。
だが答えがわからなくてもいい。
きちんと物事を見つめることが必要だ。
見つめることに意味があるのだ。
これを伝えたかった。」
僕は思った。
これまでの僕は弱くて、何度も逃げてばっかりで、
きちんと問題に対して向き合おうとする姿勢がなかった。
そりゃ人生がうまくいかなくて当然だ。
そう考え始めた僕は後悔と虚しさに
一粒の涙を目から流し落ちた。
するとファントムはないてる僕に向かってこう言った。
「おいそこの少年よ。案ずるな。人生は帰還しても続く。
今後様々な問題に出くわすこともあるだろう。
その時はきちんと見つめてみよ。
きっと正しい方へそなたを導いてくれるだろう。」
こうしてファントムは、
出会った頃の態度とは打って変わり、
一人一人へエールを送り、宇宙船を元に戻してくれた。
それどころか、お詫びの食材まで提供してくれた。
彼の仮面から出てる表情は憎たらしくなく、
温かみを感じる表情に見えた。
こうして僕たちは宇宙船に乗り、
ファントムに別れを告げ、最後の星へ向かって行った。